体温

かつて、私に優しい人がいて、僕はその方を愛していました。
今のところ、唯一『全てを失くしても共にいたい』と思った人かもしれません。
その方は、よく、私を静かに見ていました。
そういうとき、私は恥ずかしくて、見られていることに気付いていないフリをしていました。
相手を喜ばせてあげたいのに、どうしていいか分からない時も、その方は僕を見ていました。
黙って目を逸らしていると、両腕に力を込めて抱き締められました。
驚いたものの、暖かくて、安心して、私はじっとしていたのです。


「…千の愛の言葉を紡ぐより、一時の温もりが大切なこともあるんだよ」


何度も教えられていた言葉が、その時、初めて、私の中に入っていきました。