困ったちゃん

「面白いこと言ってないのに、何で笑うかな?
 というか、いつも笑ってるよね」


かにかまってもらえると、それで幸せ。
でもね。


「…もしかして、寝てた?
 遅いもんね、寝ようか」


寝てたわけじゃない。
眠かったわけでもない。
笑わない時もある。
声を聞かせられないときもある。
それだけ。


『ごめん、眠くはないよ。今日はどうしたの?』


メールでなら、言葉が出る。
返事は、すぐに届いた。


『約束破っちゃったから、謝りたくて。ごめんね』
『気にしないで。また今度でいいよ。
 明日も仕事なんだから、先におやすみなさい』


「気にならないわけないでしょ!」


メールで遣り取りが終わると思っていた。
そうはいかないらしい。


「二条さんはまだ寝ないんでしょ?」
「……」
「眠い?」
「ううん」
「眠くない?」
「うん」
「じゃ、しばらく話に付き合って」


君は話好き。
その日のコト、趣味、ニュース、仕事の愚痴でさえも、明るく話す。
気付くと、大笑いしていた。


「さてと、二条さんも機嫌よくなったし、寝よう」
「いや、元々、怒ってないってば」
「あのねぇ…いっつも子供扱いしてくれるけど、一応さ、年上なんだよね。
 人の心だって読めないわけじゃないんだよ。
 二条さんが泣いてたことくらい、気付かなかったわけじゃないのさ」
「う…」
「自分のせいで泣かせちゃうなんて、辛いからね。
 泣きたい時は泣けばいいんだよ。
 でも、原因が自分っていうのはね。
 大丈夫?」
「平気。ありがとう」


ホントは君のせいじゃない。
晴れた夜、月が僕を泣かせただけ。
あの人が好きだと言って、共に見上げた、あの月が。
約束を破られることなんて、大したことじゃないんだよ。
謝ってくれたんだもの、破った君の方がずっと苦しいんだもの、僕は暖かく慰めてもらえたんだもの。
…言えないけれど。
元気にしてもらったのに、他の人を想って泣いてた、なんて言えないけれど。
言えるのは、僕を救ってくれた人、それは間違いなく君だってことだ。