06 寂しさと喜びと

お互いにレベル12になった頃、私たちは歌う島から隠された渓谷へ移動した。
質問屋*1を開くことにしたのだ。
それほど人気はないが、いろんな人に出会えるのは楽しい。
常連もついた。
「あんな人がクランに入ってくれたらいいね」
王子は、こう言うことがあった。
「そうだね」
私は答えていたけれど、正直、誰にも入ってもらいたくなかった。
まだ二人でいたかった。
王子のONする時間は分かりにくかったが、王子がONしない時間なら分かっている。
独りでいたい時は、その時間にONしていればいいだけだ。
けれど、他にクラン員が入ったら、その時間は消えてしまう気がした。
私が一人になりたい理由は、寂しいからだ。
寂しい気持ちを抱きながら誰かと接触すると、どうしても相手に甘えたくなってしまう。
そんなかっこ悪いところを他人に見せるのは嫌だった。
落ち着くまで一人でいることが、唯一の解決策だと思っている。
しかし、真は寂しいのだから、誰かと共にありたいのだ。
王子との2人だけの時間は、それを埋めてくれた。
その時間がなくなるのなら、wizを演じる喜びが減ることを意味する。
王子が期待に胸膨らませ微笑む姿を見るたび、心が痛んだ。
彼に尽くさなくてはと考えるのに、気持ちはそうならない。
「クラン員GET!」
クラン設立より1ヶ月後、私たち以外のクラン員が入った。
クランは、初心者育成クランへと変わったのだった。

*1:他プレイヤーからの質問に答える人。大抵は初心者エリアで行う